現代において「時計はスマホで十分」と語る人がいる一方で、時計は“語れる道具”としての価値を再評価されています。
そこに突如現れたのが、1万円台で買える、フランス生まれの手巻き式ミリタリーウォッチ「Kelton Camper」です。

この時計、ただ安いだけではありません
ブランドのルーツを辿れば、フランスの戦後復興とアメリカン・スタンダードの影響を色濃く受けた歴史が浮かび上がります。
そして時計自体も、決してファッションのための薄っぺらなアクセサリーではなく実用性と歴史性を兼ね備えた“日常使いできるミリタリーウォッチ”なのです。
フランスの庶民に寄り添った“TIMEXの弟分”──Keltonというブランド


Kelton(ケルトン)は1955年、フランス・ブザンソンにて誕生しました。この地は“フランスのスイス”とも呼ばれた時計製造の中心地であり、Keltonはまさにその伝統の一端を担う存在でした。
アメリカのTIMEXと、フランスのVIXA創業者ステファン・ブリエの提携によって生まれたブランドで、そのスタート地点からして“アメリカの合理性とフランスの職人気質の融合”という、興味深いバックグラウンドを持っていたのです。
当初からKeltonは、「庶民が気軽に買える丈夫な時計」を掲げて製品を展開。1950〜70年代には、フランス全土の文具店やタバコ屋で手に入る、まさに“生活の中の時計”として広まりました。
テレビCMで流れた「You change, change Kelton(服を変えるように、時計も変えよう)」というキャッチコピーは時代を象徴するもので、実際に年間400万本を超える生産量を誇ったこともあります。
しかし1980年代、クォーツショックの荒波を受け、Keltonは一度その幕を閉じることになります。
ブランドとしては1987年に工場が閉鎖され、以後しばらく“過去の存在”となっていました。
2016年、Keltonは帰ってきた──ヴィンテージの再解釈としての復活


2016年、フランスのAsConseilという企業がKeltonの商標を買収。
長らく眠っていたKeltonを再び現代に呼び戻します。新生Keltonが掲げたのは、かつての哲学の継承です。「誰にでも手の届く価格」「レトロな意匠」「毎日使いたくなる実用性」をキーワードに、復刻モデルや新設計のシリーズを打ち出しました。



注目すべきは、復活後のKeltonが“ただの懐古主義”に陥っていない点です。
過去の名作をそのまま再現するのではなく、「今の時代にも通用するミニマルな道具」として再構築していること。安価な部品を用いつつも、スタイルや素材感には“ちゃんと”手を入れ、ブランドとしての矜持が感じられます。
Camper:語れる、巻ける、使える──戦場帰りの1万円時計


そんなKelton復活の中でも、特に注目すべきモデルがCamper(キャンパー)手巻きモデルです。この時計のベースとなっているのは、1980年代にフランス国内で限定的にリリースされたミリタリー仕様のモデル。当時のTIMEX Camper(米軍納入モデル)にも酷似しており、“Kelton版Camper”とも言える1本です。
◆ 主な特徴と仕様
- ムーブメント:Seagull系の中国製手巻きムーブメント(35時間パワーリザーブ)
- ケース:モノコック(一体型)ABS樹脂ケース
- 風防:ドーム型アクリル風防
- サイズ:36mm径 × 12mm厚、重量20g台
- ストラップ:スリップスルー型ナイロン製(ミリタリー仕様)
- 防水:30m(日常生活防水)
まず特筆すべきは軽さと巻く喜び。
20g台という数字は、現代のスマートウォッチや大型ダイバーズとは一線を画す“装着感のなさ”とも言える快適さがあります。ケース素材はABS樹脂。
さらに、裏蓋がないモノコック構造で、ムーブメントのメンテナンス性も良好。中華製ムーブメントながらも、修理も比較的容易で、構造に無駄がありません。まさに「巻く→使う→飽きない」の三拍子が揃ったモデルなのです。
Kelton Camperは、どんな人に刺さる時計か?
この時計、正直言ってスペックや素材だけで評価するタイプではありません。むしろ「その人がどう使うか」「どんなふうに語るか」で、真価が決まる時計です。
- ✔ アナログな体験が好きな人(毎朝ゼンマイを巻くことで1日が始まる)
- ✔ 高価な機械式は怖いけど、機械式を一度体験してみたい人
- ✔ ガシガシ使える“2本目”や“休日用”を探している人
- ✔ ヴィンテージウォッチが好きだけど、実用を優先したい人
- ✔ ストーリーのある時計が好きな人
言ってみれば「自分だけの時計が欲しい人」にこそぴったりな1本。



価格は1万円ちょっと。
ここに“語れるミリタリーの歴史”と“毎日の儀式(手巻き)”がセットでついてくるなら、むしろ安すぎるとも言えるでしょう。
まとめ:Kelton Camperは“道具の原点”に立ち返る時計
Kelton Camperを腕につけた瞬間、「時間を確認する」行為がちょっとだけ変わります。スマホを見る代わりに、手元の秒針が刻む“命のリズム”に耳を傾ける。ゼンマイを巻くたびに、「今日も一日が始まるんだ」と身体が覚える。



これは、スペックでは語りきれない“道具との付き合い方”を教えてくれる時計です。
Kelton Camperは、ミリタリーというルーツを持ちながら、現代の生活にぴたりと寄り添うパートナー。1万円という価格で、これだけ深く語れて、そして使い込むことができる時計は、なかなか見つかりません。もしあなたが、スマートウォッチにはない“アナログの楽しさ”をもう一度味わいたいのなら、Camperはきっとあなたの期待に応えてくれるはずです。
巻いて、使って、語れる。Kelton Camperは、そんな時計です。
コメント